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足助病院コラム

Asuke Hospital column

2021/01/26 

Vol.120  「あの時のぼくの語ること今ここで語ること(カミナリ様とおへそ)」

執筆 足助病院職員

診療協同部長兼薬剤部長  野村賢一

夏の夕暮れ時、近所に住む幼稚園の年長組の隼人と年少組の悠斗とがじじぃの家に遊びに来た。
「じじぃ、しりとりゲームしよう」
セミの鳴き声にも劣らぬ大きな声で隼人と悠斗は大相撲のテレビ中継を観ているじじぃに近寄り催促する。しりとりは幼稚園で流行っている。
「結びの一番が終わってから・・・、それまでお前らも相撲を観ろ」
こう言うと、じじぃはテレビのリモコンスイッチのボリュウームを上げる。
二人の孫は土俵の上で塩をまいたあと大きく片足を上げる力士の恰好を観てそれを真似る。
「よし、いけいけ・・・おっ~、どうした、あっ~、あっ、やられた」
じじぃは悲鳴にも似たばかでかい声を上げたあと、両掌で太ももを力強くポンボンと叩いた。
画面の中では座布団が縦横無尽に飛び交っている。
「しりとりするぞ」
じじぃは振り向き様にテレビを容赦なく切った。
こういう身勝手とも思える動作は期待通りにいかなかった時のじじぃの癖だった。
外が黒い雲に覆われ始めると今にも泣き出しそうな天気となった。
「おへそのある動物でしりとりだ」
お兄ちゃんの隼人は首をかしげる。弟の悠斗も困り顔している。(おへそのある動物って、いったいどんな動物なんだろう・・・)
じじぃは孫二人に、赤ちゃんがお母さんのお腹から生まれてくるものは良し、卵の中から生まれてくるものはやり直し。
シマウマの赤ちゃんはお腹から生まれるからマル、ニワトリの赤ちゃんは卵から生まれるからバツ、と動物図鑑とにらめっこし始めた孫二人にこう説明する。
じじぃを審判とするしりとりゲームが始まった。お兄ちゃんが最初に答える。
隼人「ぞう」悠斗「うさぎ」じじぃ「きつね」隼人「ねこ」悠斗「コアラ」じじぃ「らくだ」・・・・・・隼人「さい」悠斗「いのしし」じじぃ「しか」隼人「カラス」じじぃ「ちょっと、待った」
審判役のじじぃがすかさず止める。
カラスは卵じゃなかったか、そう言うと、じじぃはスマホを取り出しネットで調べ、カラスの卵の写真画像を探す。
「カラスの赤ちゃんは卵から誕生しているぞ」
じじぃはお兄ちゃんにそう告げるとやり直しを求めるが、返答がないので、降参か、と問い質した。
隼人はちょっと待って、と言ったものの、いくら考えてもなかなか正しい動物が思いつかない。このままでは負けてしまう。
その時だ。外が急に暗くなり強い風が土ぼこりを舞い上げ庭の木を揺らした。
稲妻が光り、数秒後に雷鳴がとどろく。滝のような雨が降り出した。あたり一面があっという間に水浸しとなる。
三人はしりとりゲームのことも忘れ、夕立のゲリラ豪雨のすさまじさに身をかがめおののいた。
突然、何かひらめいたのか、隼人が言い出した。
「しりとり、カラスはダメだったけど、カミナリならどう?」
「へぇー、・・・どうして、カミナリならいいんだ」
じじぃはまぶたを広げ目を丸くさせる。
「ほら、カミナリ様、おへそ出している人から取ってきたおへそ、たくさん持っているでしょ。おへそ、いっぱいあるよね」
「まぁー・・・」
「だったら、おへそのある(もっている)動物でいいでしょ」
「う~ん、そーきたか」
じじぃは隼人の答えにびっくり仰天すると間髪を入れず白旗を上げる。
「負けました」
じじぃが頭を下げるとお兄ちゃんはガッツポーズをとり大喜び、それにつられ弟も大笑いする。
近くでダメを押すように再び稲妻が光り雷鳴がとどろいた。
隼人と優斗はお腹に手をあてカミナリ様におへそを抜き取られないよう用心する。じじぃもあわてておへそに手をあて孫の真似をする。三人ともおへそを守0ることに懸命なのである。

・・・・・

夏が流れて行く。
相撲、しりとり、ともに負けたじじぃの夏。
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