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足助病院コラム

Asuke Hospital column

2023/11/07 

Vol.265 「偉大なる父」

執筆 足助病院職員

企画室長兼事務管理室長 日比敦郎

最近、娘たちが将棋を覚えてきて休日などに将棋を指すことが増えています。
ゲームなどで負けると不機嫌になる二女なんかは、将棋で負けても「ありがとうございました」とペコリできるほど真剣に取り組んでいます。
親子ともども負けず嫌いなので、切磋琢磨の意味も含めて私に勝てば100円という懸賞をつけていますが、いまだに一度も払っていません。
「パパ強すぎ~、絶対勝てないよ~」
と泣き言を言われますが、100円が懸かっていますので一切容赦せず、全勝キープ中です。
「パパよりじぃじの方が数倍強いよ、飛車角香車桂馬落としでも勝てなかったもん」
「えぇ~!!そんなに強いの~?パパ、じぃじと将棋やってよ~」
「いやだよ、勝てないもん」
などと大人げないやり取りをしていましたが、たまには実家に顔を出すか・・と先日実家に行ってきました。
「じぃじの強さを身に染みて体験しなさい」とまずは長女が指します。
しばらく対局を見ていると、あれあれ?なんだかじぃじの将棋にキレがありません・・。
齢81にて身体能力がかなり落ちてきています。角の筋道を間違えたり、駒を取るときの置き場所間違えたり・・なんだかルールすら危うい状況です。
さすがに親父衰えたな・・・などと思っていると、娘はあっけなく投了です。これは仕方がないですね。
「やっぱりパパじゃないと勝てないよ~」と言われ、渋々父と対局へ。
角の筋道見間違うくらいだからさすがに勝てるかな・・などと30数年ぶりに父と向き合って将棋を指しました。
娘には穴熊で指した父ですが、今回はお互い矢倉を組んでの攻防戦です。居飛車矢倉は私が父から教わった唯一の型です。とても懐かしい想い出が甦ってきます。
そうこうするうちに、戦局はみるみる不利になっていきます。
先ほどの父の姿はどこへやら・・あっという間に詰められました。全く歯が立ちませんでした。
それもそうでしょう、私の実力は30年前のまま。駒をたくさん抜いてもらっても勝てないわけですから、ハンデなしで敵うわけがありません。
私と対局する時の父はあの頃と全く変わっていませんでした。
「じぃじすごーい!パパやっつけちゃった!」
と娘たちは普段見ることのない父親の負け姿を見て大喜びです。なんだか勧善懲悪の絵図みたいです。
ふと、父も祖父には勝てなかったことを思い出しました。父にとっても祖父は偉大なる父だったのでしょうか。
幼いころはキャッチボールをしてくれた父も、今では歩くのも緩慢になっています。しかし将棋を指すときは大きな壁として立ちはだかっていました。
恐らく、父に勝てる日は来ないでしょう・・。

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