診療協同部長兼薬剤部長 野村賢一
「あー、おいしい」と口をついて出る時の、あー、は実感なんだろう。
どんぶりの中から蒸気が立ちのぼり、箸でラーメンをひと混ぜしたときの鼻腔を突くあの匂いと香り。
琥珀色の汁の中で海藻のようにゆっくりと泳ぐ黄色の麺。
食べる前にひと口コップの水を飲んで、よし、食べるぞ、とそのいただく瞬間なんかに感じる「あー、しあわせ」。この一瞬の中にラーメンの幸福感が光る。ぼくはポンポコラーメンを食べてからこんな風に思うようになった。
ぼくのラーメンとの始まりは子供の頃、お袋がインスタントラーメンを作ってくれたのが始まりか、ラーメン屋で食べたのが最初なのか記憶にはない。ただ時間がない時にお袋はインスタントラーメンをよく作ってくれた。
お袋は百姓をやっていたので田んぼでの農作業が遅くなった時、簡単にできるということで夕食にインスタントラーメンをつけ足した。卵や肉や野菜などは入っておらず、素ラーメンそのもので当時の記憶としてはあまりうまい食べ物ではないと認識していた。
ところが最近になってポンポコラーメンというインスタントラーメンを食べる機会があり考えが変わった。
インスタントラーメンは大手製粉メーカーから研究に研究を重ねた様々なものが発売されている。
しかしこのポンポコラーメンは大手のものを凌ぐ昔の味で実に美味しいのだ。手が込んでいないのでたいしたラーメンではないと侮っていたというのに。ぼくは謎を解くように考える。
ポンポコラーメンは豊川市小坂井町にある山本製粉が製造している。
ぼくに限ってだろうが、この昔ながらの麺の太さと素朴な味がぼくの味覚にぴったり合うのである。年齢を重ねるに従い味覚が変化してきて、ただ受け入れやすくなっただけかも知れない。
いずれにせよ、大手さんのものよりもずっとしあわせを感じるのである。おまけに大手さんのラーメンは5食入りパックで売られている。なのに、このポンポコラーメンは6食入りである。割安感もある。
そしてラーメンにつけるネーミングがまた「あー、しあわせ」を感じさせるのもいい。ポンポコっていうのが面白い。
小さい子供がラーメンを全部食べて、周りの者に対して、満腹になったお腹を突き出して、ポンポコ、ポンポコとお腹を叩いて走り回る光景が想像できるのである。食卓の回りの空気が必然的にしあわせ色に変わってしまうではないか。
可愛らしいネーミングになつかしい味による二つのささやかな幸福がこのラーメンには宿っているようで仕方ない。ラーメンならポンポコといってしまいたくなる。
渥美の田原市のサンテパルクで売っていたので購入した。不幸から遠ざかって実感できる幸せに近づきたくなった時、ぼくはキッチンに立ってポンポコラーメンをこしらえている。卵と肉と海苔はポンポコをもっと絶品にするため欠かさずいれるようにして。